「サダム・フセイン政権崩壊後のイラクと中東
国際社会の挑戦とチャンス」
日本記者クラブにおけるヘンリク・シュミーゲロー大使講演原稿仮訳(原文はドイツ語)
2003年5月19日
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--原稿--
サダム・フセイン政権崩壊後のイラクと中東
国際社会の挑戦とチャンス
I.
地球上最も極端な暴政を敷いた政権の一つが終焉したことを、ドイツの人々は、日本や世界の他の地域の人々に劣らず歓迎しました。民主主義が力を増すほど、世界はより安全なものとなるのです。既にカントも、民主主義国家同士は戦争をしない、との予測を試みています。
イラクでの戦争は必要だったのか、という問題については意見の相違がありました。しかし、シュレーダー首相は、4月30日のベルリンでの小泉総理との会談でも述べたように、今はこの対立を続ける時ではない、と繰り返し表明してきました。現在重要なのは、イラクにおける連合軍の軍事的勝利をふまえ、イラク国民と地域全体のための政治的利益を引き出すことだ、と述べています。
ですから本日は、現在私達がイラクと中東地域全体において直面している共通の課題についてお話したいと思います。
II.
イラクにおける現在最も緊急の課題は、治安と秩序の構築です。これは、戦時国際法により連合軍の責任となります。従って、米国の国連決議案は、米国と英国を占領国として認めるという点で適当であるといえます。
同時に、困窮するイラク国民のための人道支援をできるだけ早期に開始しなければなりません。勿論ドイツはこれに参加していく意向です。実際、緊急支援プロジェクトのため既に1450万ユーロの資金が拠出されました。更にドイツ政府は、イラクにおける人道支援予算を総額5000万ユーロに増額しました。政府は、国連の傘下で、できるだけ早期にこの予算をイラクで提供していく用意があります。
しかし、国連の任務が人道支援の割り振りだけのはずはありません。むしろ、国の経済・政治の将来に係る事項について、重要な役割を担わなければならないのです。
今後克服すべき課題は、恐ろしく複雑かつ困難なものです。
・ 文化的、宗教的に極めて多様な、各部族、宗教共同体、社会勢力の寄り合い所帯を統合へと導かねばなりません。
・ 30年間の独裁制のもとで傷つき、抑圧された社会が、出来るだけ早期に民主主義国家を構築しなければなりません。
・ 3度にわたる不毛な戦争とその影響で荒廃した経済を、立て直していかなければなりません。人々には、仕事と経済的な展望が与えられなければなりません。
このような課題は、国際社会全体の取り組みがあってはじめて乗り越えることができるものです。経済復興は、IMF及び世銀という国際金融機関の支援なくしては成しえないでしょう。また政治復興のためには、国連の持つ専門性と特にその正統性が欠かせません。ですから、「復興」という総合的取り組みは、全体として国連の傘下でなければ考えられないことなのです。
この(国連の)「傘」が個別にどのような形をとるのか。これは、今後数週間、数ヶ月間にニューヨークで明らかにされるべき問題でしょう。これに関し、先日米英は提案を示しました。この提案は、まだ他の安保理メンバー国の考えと完全に一致しているわけではありません。しかし、こうした意見の相違によって、緊急に必要な決定プロセスが足止めを受けてはなりません。私は、議論が実務的に行われるものと確信しています。最近、ドイツのギュンター・プロイガー国連大使が議長を務め、「石油と食糧の交換計画」の継続についての合意が得られましたが、これは幸先のよい兆候と言えます。
私達に復興に関する経験が不足しているわけではありません。アフガニスタンで既に実証済みの復興モデルには、イラクに適用出来るものもあるのではないかと思われます。
1. 2001年12月にボンで開催されたいわゆる「ペータースベルク会議」の例を参考にし、政治的将来に関する会議を実施すること。会議では、国連の傘下で、最終的に民主的に選ばれたイラク政府が段階的に統治責任を担うためのスケジュールを定めることができるでしょう。
2. 2002年1月に東京で開催されたアフガニスタン会議を範とする経済復興会議。各国の支援表明の取りまとめと調整を行うことができるでしょう。
3. 特定分野の復興について、経験と実施の意志を有する国々が主導的役割を引き受けること。
ドイツと日本は、アフガニスタンで、共に復興の成功に向けた責任を担いました。駐日大使として私は、日独両国が、イラクに関しても、戦争への軍事参加はなかったものの再び有益な役割を果たすことは十分可能であるとみています。フィッシャー外務大臣は、先般の川口外務大臣との会談で既にこうした期待を表明しています。
III.
これまで、イラク問題とパレスチナ問題との優先順位について、どのような議論が行われてきたにせよ、パレスチナ問題が政治的アジェンダであることに変りはありません。ここ数日の報道により、事態は正しい方向へ向かいつつあるとの控えめがらも楽観的な見方が生まれています。
米国政府は、先日、この対立に関し、いわゆる「ロードマップ」の公表を行い、新たな和平努力のためようやくその発言力と威信を発揮するにいたりました。ドイツ政府は他の欧州各国同様、従来より「ロードマップ」の履行を求めてきました。フィッシャー外務大臣は、このロードマップの策定に深く携わってきました。今回は、暴力の悪循環を断ち切り、和平への道を模索するための近年最大のチャンスといえるかもしれません。この点についても、フィッシャー外務大臣と川口外務大臣の見解は完全に一致しました。
IV.
大量破壊兵器とのつながりを得た国際テロリズムは、現在、自由で民主的な私達の社会にとりおそらく最大の脅威となっている。この点について、私達はアメリカや日本と同じ認識です。9.11後の反応として、ドイツ国民全体は、テロとの闘いにおける米国との連帯を進んで申し出ました。今日でもその連帯に変りはありません。
こうしたことから、ドイツはアフガニスタンで主導的役割を果たしました。わが国は国際治安維持部隊(ISAF)のため2414人の兵士をカブールへ派遣し、「不朽の自由」作戦では862人の兵士と連邦海軍の艦船をインド洋に派遣しました。ドイツがイラク戦争に軍事的に参加しなかったことから、平和主義的であるとの批判の声を耳にすることがあります。これは正しくありません。ドイツはイラクのケースを除けば、米国に次いで世界第二位の規模の部隊を世界中の紛争地域へ派遣しています。
2月には、インド洋で活動中のドイツの艦船への日本の海上自衛艦による燃料補給活動が行われるよう、川口外務大臣との間に覚書交換の形で合意が成立しました。私はこのことを特に嬉しく思っています。
このように、現在アフガニスタンとインド洋において、日独両国による未来志向の協力が進められています。
ご静聴ありがとうございました。
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